「貂主の国」サイトのご説明

「貂主の国」とは・・・
歴史学者・松田壽男が北方ユーラシア狩猟文化圏を呼んだ言葉。かつて玄奘三蔵が「大唐西域記」巻頭において、世界を4つに区分したのに倣ったもの。即ち、「人主の国(中国)」「象主の国(インド)」「宝主の国(西域・イラン)」「馬主の国(草原地帯)」に対しての表現である。彼は北ユーラシア世界が単に原始的狩猟民の住む未開の世界であった、とする考えを否定する。毛皮をはじめとする様々な交易が古くから行われ、その結果彼らの社会には変化と発展が、そして世界史の檜舞台とのつながりがあったと主張する。このサイトでは、「空白地帯」として見過ごされやすく、一方では「純朴な昔ながらの狩猟民」として「文明国」に対置するものとして祭り上げられてしまうことも多い彼らを、「ただの隣人として」取りあげる。「無視」も「称揚」もなく、普通に眺めることができれば、との思いからこの言葉を使わせていただく。

扱う地理的範囲
北方ユーラシアと聞いてもあまり耳になじみのある言葉と思う方はいないだろう。シベリアと同義?と思われる方も多いかもしれない。とはいえ、シベリア自身意味する範囲が変化する言葉であったりする。チュクチ半島やカムチャツカといった極東ロシアをシベリアにいれるかどうかという問題もあるし、千島列島やサハリン辺りはシベリアと呼ぶには語弊がある。旧ソ連やロシアではウラル山脈以東、太平洋との分水嶺以西をシベリアと呼んでいた様だからこれに合わせておいた方が無難といえば無難そうだ。
このサイトではそうした政治的国境や区分にはあまりとらわれずに広くユーラシア大陸の北部に広がる、狩猟や漁労、採集、トナカイ飼育等を中心に生計を立ててきた世界を扱いたくて「貂主の国」という言葉を使っており、もとよりシベリアに限定されるつもりはない。
扱う地域を現在の行政区分をもとに列挙するなら以下のようになる。
  1. ウラル山脈以東のロシア領
  2. 北海道(北方4島も入れておく)、東北地方、新潟県(鮭文化の色濃いところは入れておきたい)
  3. 中国東北部(内モンゴル自治区の東半込み)
  4. モンゴル北部森林地帯
  5. モスクワ以北のヨーロッパ=ロシア北部
  6. カザン周辺のヴォルガ川水系にある自治共和国群
  7. エストニア
  8. フィンランド
  9. スカンディナビア半島北部
もっと大雑把に言うなら「東京−北京−モスクワ−ストックホルム」を結ぶラインよりも北の地域ということになる。

このサイトの目的
概して北方森林地帯以北の地域は歴史を持つ存在として扱われることは少ない。世界史の教科書を開いてもツングースの歴史が書いてあるわけでもないし、日本史の教科書においてもアイヌやエミシの歴史がもう一つの日本列島史として扱われているわけではない。そこにあるのは「原始時代から変わらぬ暮らし(それが野蛮で貧しいものか、精神的にも物質的にも豊かなものであるか、という描き方の違いはあるにせよ)を営む人々」という停滞的なイメージであり、その歴史の描き方は「文明国家にいかに組み込まれたか」もしくは「いかに虐げられ文明の名のもとに同化させられてきたか」というものであることが多いのではないか。そうした対照的な観点から離れ、歴史的主体として第三者的に眺めた情報というのは少ないのではないかというところからこのサイトはスタートしている。
貂主の国は決して停滞的な世界ではなく歴史的主体というものがあることをまず認識し、それを過小評価したり称揚のあまり被虐的な観点から見るのではなく、あるがままをどう捉えていくのか、そうした作業のための足がかりをこのサイトに蓄積したいと考えている。また、歴史に限らず、広く「北方ユーラシア世界はどういうところで、どのような暮らしがあるのか」についても触れていきたい。


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